吸水性 (sorptivity)

目的

水平カラム中の横方向の浸潤において、積算浸潤量が時間の平方根に比例することを確認し、吸水性 (ソープティビティ; sorptivity) を求める。

実験の様子

写真:ソープティビティ測定の様子。円筒土壌カラムに、左から右へ水を浸透させている。浸透した場所の色が変わるために浸潤の様子が観察できる。

理論

均一な初期水分をもつ無限長のカラムに水を供給するときに、 初期体積含水率をθi、水の浸入面における体積含水率をθoとすると、初期条件、境界条件は以下のように書ける。

θ = θi (x ≥ 0, t = 0)
θ = θo (x = 0, t > 0)
(1)

ここで、t は時間、 x は流れの方向の距離で、水の進入面が x=0 である。ソープティビティ s は、以下の式で定義される[文献1 p.15 式(10.26), 文献2 p.45 (2.62)]。

Equation (2)

ここで、λ(θ)はボルツマン変換の際にあらわれる合成変数で、λ(θ)=xt-1/2にて定義される。また、I は単位断面積あたりの積算浸潤量である。s は、初期体積含水率 θi の関数である。

装置

  1. 円筒カラム 内径 3cm, 長さ 30cm
  2. マリオット管 内径 3cm

準備

  1. 円筒カラムの内径を測定する。
  2. 袋に入っている土(袋+土)の質量を測定する。
  3. 土を円筒カラムに充填する。
  4. 残った土(袋+土)の質量を測定し、充填した土の質量を求める。
  5. 土壌カラムを水平にセッティングする。
  6. 土壌カラム中心からの高さ3cmの位置、すなわち円筒上端からの高さ1.5cmの位置に、マリオット管給水位を調整する。

測定

  1. マリオット管から給水を開始する。
  2. 水が土に到達した時間を t=0 とし、ストップウォッチをスタートする。t=0のときのマリオット管給水位を記録する。
  3. 流れがはじまったら、マリオット管の給水位を土壌カラム円筒の中心位置まで下げる。
  4. マリオット管の給水位と、土壌カラムの浸潤前線の位置を以下の表の通りの時間間隔で測定する。浸潤前線の位置は、目視で測定する。
  5. 水温を記録する(ソープティビティは温度依存性を持つ。文献4参照)。
3分まで 10秒ごと
10分まで 30秒ごと
20分まで 1分ごと
30分まで 2分ごと
90分まで 5分ごと

計算

  1. 単位断面積あたりの積算浸潤量Iは、t=0 からのマリオット管の給水位低下量と等しい。これは、マリオット管と土壌カラムの断面積が等しいことによる。
  2. 浸潤面が飽和すると仮定したときの単位断面積あたりの積算浸潤量I'を、土壌カラムの浸潤前線の位置から計算する。 計算式は、
    積算浸潤量 I' = 水の浸潤した部位の長さ×(間隙率 n - 初期体積含水率 θi)
    となる。ここで、間隙率 n については乾燥密度 ρd と土粒子密度 ρs から
    n = 1 - ρds
    と計算でき、初期体積含水率 θi は、初期含水比 ω と乾燥密度 ρd から
    θi = ωρdw
    と計算できる。ここで、水の密度 ρw = 1 g cm-3として計算する。
  3. 横軸に時間(t)、縦軸に積算浸潤量 I および I' を取ってグラフを書く。
  4. 横軸に時間の平方根(√t)、縦軸に積算浸潤量 I および I' を取ってグラフを書く。
  5. √t と I の関係が原点を通る直線になれば、その直線の傾きがソープティビティー s である。
  6. 横軸に I 、縦軸に I' を取ってグラフを書く。IとI'には直線関係があるか?あるとすれば、
    I'/I = (n-θi)/(θoi)
    この関係式から、水の浸入面における体積含水率 θo を計算することができる。また、I=I' であれば θo = n となり、侵入面が完全に飽和されていることになる。
  7. 結果を表にまとめる。

考察

ソープティビティ測定では、t=0の時間を正確に取ることが難しい。そこで、この測定に誤差が生じると考える。また、積算浸潤量のゼロ点にも誤差が生じると考える。このとき、式(2)のかわりに以下の式を採用する。

Equation (3)

この式を書き直すと、以下のように、tはIの2次関数となる。

Equation (4)

すなわち、I-tの関係を2次関数で回帰したときの係数を式(4)と比較することでs,a,bの値を求めることができる。このようにして得られたsが、より正確なソープティビティの値となるものと考えられる。この値を、√t-I直線の傾きから得られたソープティビティの値と比較してみよう。

データシート

Excel ファイルをダウンロードして用いる。このファイルには4枚のワークシートがある。「データ書き込み用」という名前のワークシートを印刷して、当日の測定データ書き込みに用いる。その後、「ソープティビティ計算用」シートに測定値を入力し、上記「計算」に記した2種類のグラフを作成する。「結果」データシートに、得られた結果をまとめる。その際「測定例」データシートにて、過去のデータを参考にすること。

試料  
初期水分状態(風乾、自然含水比等)  
土粒子密度 ρs (g cm-3)  
充填乾燥密度 ρd (g cm-3)  
初期含水比 ω  
間隙率 n  
初期体積含水率 θi  
浸入面における体積含水率 θo  
水温 (℃)  
ソープティビティ s (cm s-1/2) 

ホワイトボード

文献

  1. ダニエル・ヒレル著 岩田進午・内嶋善兵衛監訳:環境土壌学 耕地の土壌物理 農林統計協会 (2001) amazon.co.jp
  2. Tsuyoshi Miyazaki, Water flow in soils, Marcel Dekker, New York (1993) amazon.co.jp
  3. Infiltration: Iowa State University の Soil Physics Group による Soil Physics の講義資料。
  4. Zhang, F., Zhang, R. and Kang, S. (2003) Estimating temperature effects on water flow in variably saturated soils using activation energy. Soil Sci. Soc. Am. J. 67: 1327-1333.

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