土壌の熱特性

目的

地中温度(地温)は、1日および1年を周期として変動する。その振幅(温度の変化幅)は深くなるにつれて小さくなり、その位相(最大値・最小値を示す時間)も深いほど遅れる。こうした現象は、気温や日射により地表面に流入した熱が、熱伝導によって地中に移動することによっておこる。

本実験では、土壌中に熱電対温度計を挿入し、地表面から周期的に熱を与えたときの地温変化を計測する技術を学ぶ。また、得られたデータから熱伝導率を求める方法について学習する。

熱電対の原理

温度を測る簡単な道具の一つに熱電対(thermocouple)がある。熱電対は用いる種類に応じて-200℃〜2000℃程度までの広い測定範囲をもち、比較的安価であること、遠隔測定ができること、測温部が小さいことなどの特徴がある。

熱電対は、その名の通り1対の金属線からなる。ある金属に温度差を与えると、金属内の自由電子が熱によって移動し高温側の密度が小さくなる(図-1)。このため、この金属の低温側は負に、高温側は正に帯電する。こうした自由電子の密度の変化は金属の種類によって異なる。そこで、2種類の金属線を図-2や図-3のようにつなぎ、接点A, Bに異なる温度を与えると、接点間に起電力(熱起電力)Eが発生することになる。この現象は発見者T. Seebeck (1821)にちなみ、ゼーベック効果と呼ばれる。

熱起電力の大きさは、金属がそれぞれ均質であれば金属線の組合せと接点間の温度差だけによって決まり、金属線の長さや太さ、接点以外の部分の温度などには無関係である。そこで、一方の接点を基準温度に保ち熱起電力を求めれば、もう一方の接点の温度が測定できる。銅−コンスタンタンの場合、1℃あたりの熱起電力はおよそ40μV(熱起電力1mVのときの温度差は25℃)である。

Fig. 1 Fig. 2
図-1 ある金属内の温度勾配下の電子密度 図-2 起電力の発生 (接点が2つの場合)
Fig. 3
図-3 起電力の発生 (接点が1つの場合)

熱伝導の理論

基礎方程式

土壌中における熱移動は、フーリエの法則によって表される。

Equation (1)

ここで、Jは熱フラックス(W/m2)、Tは温度(K)、xは距離(m)、λは熱伝導率(W/mK)である。

また、土壌中における熱の保存式は次式(2)で表される。

Equation (2)

ここで、Hは次式で与えられる体積熱容量(J/m3)、rは体積あたりの発熱量(W/m3)、tは時間(s)である。

H = C(T-Tref) (3)

ただし、Cは土壌の体積比熱(J/m3K)、Trefは基準温度である。r=0の場合、(2)式に(1)式と(3)式を代入し、Cを一定とすれば、次の熱伝導方程式を得る。

Equation (4)

さらに、λを一定と仮定すると、(4)式は次式となる。

Equation (5)

ここで、κは次式で定義される熱拡散率(m2/s)である。

κ = λ/C (6)

解析解

(4)式と(5)式に適当な境界条件や初期条件を与えると、解析解が得られる。ここでは、地表面に周期的な温度変化が与えられたときの解析解を考える。

いま、境界条件として

Equation at x = 0 (7)
Equation at x = ∞ (8)
を与えると、(5)式の解析解は次式のようになる。

Equation (9)

ここで、

Equation (10)
は、地表面温度の振幅が1/e倍(0.368倍)になる深さ(damping depth)、ωは角振動数、τは周期である。(10)式を用いると、土壌の熱拡散率κは次式で求められる。

κ = πd2 (11)

dの求め方

振幅から求める方法(振幅法)

(9)式より、深さxにおける地温の最大値、最小値、およびその差は次式となる。

Equation (12)
Equation (13)
Equation (14)

ここで、2点の深さ(x1, x2)における地温の最大-最小の差を用いると、

Equation (15)
Equation (16)

位相から求める方法(位相法)

(9)式において、深さxの地温は次式の関係を満たすとき最大となる。

ωt - x/d + φ = π/2 (17)

ここで、2点の深さ(x1, x2)において地温の最大値を示す時刻を(t1, t2)とすると、

Equation (18)
Equation (19)

土壌の熱物性

(4)式と(5)式中のC、λ、κは一般的な物質であれば、熱的な性質を表す物質固有の定数である。しかし、土壌は土粒子、水、空気で構成されるので、その構成割合や配列などによってこれらの物性値が変化する。特に、水分量の影響を大きく受けることが土壌の熱物性の特徴である。

土壌の体積比熱

土壌の体積比熱は構成割合に基づいた次式により求められることが多い。

Equation (20)

ここで、θは体積分率、ρは密度、cは質量比熱、添字a, w, siはそれぞれ空気、水、土粒子成分を表す。通常、右辺第一項は他に比べて無視できるので、(20)式は次式のように簡略化できる。

C = ρd (cs + cw w ) (21)

ただし、ρdは土壌の乾燥密度 (kg m-3; 単位系に注意)、wは含水比 (kg kg-1)、cs, cwはそれぞれ土粒子と水の質量比熱で、それぞれ840 (J/kg K)、4200 (J/kg K)である。

土壌の熱拡散率

実測した地温変化から(11)式により決定する。

土壌の熱伝導率

体積比熱と熱拡散率から(6)式を用いて算出する。

実験方法

準備するもの

  1. 土: 砂、クロボク土、立川ローム
  2. 熱電対:4本(長さ1m程度のもの3本)+素線(1本)
  3. 試料容器: 1組(土壌試料を入れる底付の円筒容器)
  4. ガラス板(金属板): 1枚
  5. 赤外線ランプ: 1個
  6. スタンド: 1脚 (赤外線ランプ固定用)
  7. ストップウォッチ: 1個
  8. 天秤: 1個
  9. 秤量缶: 3個
  10. ノギス: 1個
  11. 薬さじ: 1本
  12. データロガー: 1組 (ロガー本体・電池)
  13. パソコン

実験手順

  1. 熱電対4本をデータロガー (Campbell Scientific 社 CR10, CR10X) に接続し(接続図)、データロガーをパソコンに接続する。 データロガーとパソコンの間は、たとえば以下のようにつなぐ。ここで、左にデータロガーが、右にパソコンが接続され、パラレルケーブルを使う。
    接続例1接続例2
    パソコンにシリアルポートがない場合(新しいパソコンには、たいていついていない)、USBシリアル変換アダプタ()を使用する。
  2. パソコンにデータロガー通信用プログラムPC200Wをダウンロードする。
  3. データロガー用温度読み取りプログラム (Short Cutにて作成したもの。ファイル群。) をパソコンにダウンロードする。このプログラムは、4本の銅コンスタンタン熱電対から10秒ごとに温度を読み取るものである。
  4. パソコンからデータロガーにプログラムを転送し、実行させる。
  5. 熱電対の先端を指先で握ったり、水に浸けたりしながら、熱電対の温度がパソコンに表示されることを確認する。
  6. うまくいかない場合のチェックポイント
    1. 接続は間違っていないか。特に、データロガーとパソコンの間の接続は大丈夫か。
    2. シリアルポート番号、ボーレートの設定は大丈夫か。
  7. 試料容器の空質量と内容積を測定する。
  8. 一様に湿らせた土を試料容器一杯に詰めて、質量を量る。試料は数回にわけて入れ、そのつど突き固め棒を使って均一に詰める。
  9. 土の表面から1cm, 2cm, 5cmの位置に”つまようじ”で穴をあけ、熱電対の先端を埋設する。熱電対の挿入口と先端から10cmくらいの2箇所をビニールテープで固定する。4本目の熱電対でランプから離れたところの気温を測定する。
  10. ガラス板と土の間に隙間ができないように、試料容器の上にガラス板を密着させる。
  11. 試料容器の側面と底面を断熱材で覆う。
  12. 試料容器の真上20cmのところに赤外線ランプをつるす。
  13. ランプを6分間つけ6分間消すサイクルを2回繰り返し、この間の地温を30秒間隔で測定する。
  14. 測定終了後、 熱電対先端の位置(深さ)を正確に測定する。
  15. 熱電対先端付近の土を3つの秤量缶に採り、含水比wを測定する。

実験結果の整理

  1. 各深さの温度と時間の関係をグラフに表す。
  2. グラフより適当な区間(12分間)を選ぶ。この間、実測点は25点含まれる。
  3. 選んだ区間の1番目と25番目の点を直線で結ぶ。
  4. 3. で引いた直線とグラフとの差を求め、次の表を作成する。
    時間 t (min)00.511.5・・・11.512
    温度差 (1cm深) T1 y0 y1 y2 y3 ・・・ y24 y25
    温度差 (2cm深) T2 z0 z1 z2 z3 ・・・ z24 z25
  5. 上記の表から、各深さにおけるTmax, Tmin、およびTmaxとなる時刻t1, t2を求める。
    深さ (cm)TmaxTminTmax - Tmin t (Tmax)
    x1 = t1=
    x2 = t2=
  6. 上記表の値を用いて、(16)式と(19)式よりdを計算し、さらに(11)式からκを計算する。
    (16) 式(19) 式
    d (cm)
    κ (cm2/min)
    κ (m2/s)
  7. (21)式から土壌の体積比熱を決定する。
  8. (6)式より熱伝導率λ (W/mK)を算出する。

考察

  1. De Vries (1963) による下表の値と比較して、妥当な値であるかどうかを考察せよ。
  2. 各々の方法で求めたκを比較し、測定値に違いが生じる原因についてわかる範囲内で考察せよ。
  3. 温度変化の激しい条件では土壌の熱伝導率を正確に測定するのが難しい。(4)(5)式を誘導する際に用いた仮定に着目してその理由を考察せよ。
物質 密度 (Mg m-3) 比熱 (Mg m-3) 熱伝導率 (W m-1 K-1)
石英 2.66 0.80 8.80
粘土鉱物 2.65 0.90 2.92
有機物 1.30 1.92 0.25
水 (20℃) 1.00 4.18 0.57
空気 0.0012 1.01 0.025
0.92 1.88 2.18

式の誘導に関心がある人のために

解析解(9)の誘導のためのヒント

Equation (22)
Equation (23)
として、(5)式に代入すると、xについての常微分方程式が得られる。ここで、Imは複素数の虚数部を表す。関心のある人は応用数学の教科書を参考にしながら、誘導に挑戦してみよう。

実験データシート

  1. データ記録用シート
  2. データ解析用エクセルシート

ホワイトボード

文献


[ 土壌物理環境実験のページに戻る ]