鉄の還元溶出を利用した排水からのリンの除去に関する研究
室内モデル実験系における鉄資材からのFe(U)イオン溶出に関する因子の検討

背景・目的

小規模な廃水処理施設に適した脱リン法として,嫌気槽に鉄資材を浸漬し,溶出した鉄とリンを好気槽で共沈させるプロセスを研究した。鉄資材を利用した既存の研究は,硫酸還元菌,あるいは溶存酸素による鉄の酸化溶出を利用している。この場合,溶出した鉄イオンは鉄資材近傍で沈殿・付着し、生物膜とともに新たな鉄の溶出を妨げる要因となる。本研究ではこの問題を解決するため,水和酸化鉄を嫌気槽に浸漬し,還元による鉄イオンの溶出を利用することを試みた。この場合,溶出した鉄イオンは嫌気槽内ではFe(U)として溶存し,好気槽でFe(V)となり沈殿する。したがって鉄資材表面への沈殿物付着が抑制され,省力的かつ単純な方法で処理能力が維持されると期待した。

実験1

樹脂製接触濾材と粉末状の鉄資材(純鉄・酸化鉄・水和酸化鉄)をカラムに充填し,これを嫌気槽モデルとした。また,樹脂製接触濾材を充填したカラムに曝気装置を組み込み,これを好気槽モデルとした。嫌気槽モデルの下流に好気槽モデルを接続した系に人工排水を通水し,鉄イオンの溶出とリン除去率を測定した。

実験2

人工排水と粉末状の鉄錆を密栓試験管内で振とう培養し,廃水のBOD,および鉄錆量が鉄イオン溶出量に与える影響を検討した。

結果

実験1において,水和酸化鉄を充填した系では嫌気槽内のEhが-200mV以下に低下するとともにFe(U)イオンが溶出し,嫌気槽流出水中のFe(U)イオン濃度は10ppm前後となった。このFe(U)イオンを含む嫌気槽流出水を曝気したところ,嫌気槽流出水中では3〜3.5ppmであったリン酸態リン濃度が1.5ppm前後まで低下することが認められた。実験2においては,鉄錆量の増加および廃水のBOD上昇に伴い,鉄イオン流出量が増加することが示された。