不飽和水分移動実験
目的
自然の土壌における水分移動を解析するための重要な測定項目として、不飽和透水係数の測定(教科書p.115:概論と原理を読むこと)がある。土壌物理環境実験においては、不飽和水分移動の観察と不飽和透水係数の測定を行う。ここで、不飽和透水係数の測定は教科書とは異なる方法を用いる。
実験1. 水分移動観察
概要
異なる2種類の土壌を、それぞれ一定の乾燥密度および水分(体積含水率)で円筒カラムに充填し、両者のカラム表面同士を接触させる。接触させた面において、それぞれの試料内の水のポテンシャルが異なるために、水移動が発生する。ここで、水分移動の方向は、水分量の大小によって決まるのではなく、ポテンシャルの高低によって決まる。この水分移動にともない試料中の水分も不均一になる。したがって、その水分分布を測定することで、水分移動について考察することができる。
なお、本実験は「手順」に記述されているように、1週間後の実験にてカラムを解体する。したがって、実験終了は1週間後となり、レポート提出はそれからさらに1週間後となる。
実験装置図
試料
- 関東ローム (土粒子密度 2.67 g/cm3 含水比 測定値を使う)
- 豊浦砂 (土粒子密度 2.64 g/cm3 含水比 16 %)
実験用具
アクリルリング、パラフィルム、テープ、カラム解体用カッター、はさみ、ストップウォッチ、アルミ皿、ノギス、秤量缶
方法
手順
- 実験装置図に示したように、直径5cm、高さ1cmのアクリルリング4個を重ねた高さ4cmのアクリルカラムに試料(関東ロームと豊浦砂)を一定の乾燥密度
(関東ローム 0.65 g/cm3, 豊浦砂 1.55 g/cm3)で充填する。
まず1つ目のリングの底にパラフィルムをはりつける。アクリルリングの体積V(cm3)と充填乾燥密度ρd (g/cm3)、試料の含水比ωから、1つのアクリルリングに充填する土の質量W(g)を
W = Vρd (1+ω)
と計算することができる。この計算した量の土を測り取り、カラムに充填する。
1つのリングごとに土の質量を測定して、リングをセロテープで結合しながら4つのリングに土を充填する。カラムの上端は、蒸発防止のために実験開始時までアルミ皿で蓋をする。
- 充填に用いた試料の含水比を、秤量缶で測定する。(教科書 p.34)
- 関東ロームと砂のカラムそれぞれの上端にかぶせてあるアルミ皿をはずし、それぞれの土粒子表面どうしを実験装置図に示したように接触させる。接触した時間を正確に記録しておくこと。
- 3から1週間経過したところで、カラムを各リングごとに解体する。
- 各リングごとにアルミ皿に試料をとり、試料とアルミ皿の合計質量 (W1)を測定する。
- アルミ皿と試料を炉乾(105℃、24時間)し、乾燥試料とアルミ皿の合計質量 (W2)、およびアルミ皿の質量 (W3)を測定する。
計算
- 乾燥密度の計算
各リングごとの乾燥密度ρdは、
ρd = (W2−W3) / V
と計算される。また、カラム全体の乾燥密度も計算できる。
- 湿潤密度の計算
各リングごとの湿潤密度ρtは、
ρt = (W1−W3) / V
と計算される。
- 体積含水率の計算
測定された乾燥密度、湿潤密度と、与えられた土粒子密度から、各リングごとの体積含水率θを計算することができる。(教科書 p.26, 式 (3.18))
- サクションの計算
実験に用いた試料の水分特性曲線(ダウンロード)と3で得られた体積含水率から、サクションを読みとることができる。
実験2. 不飽和透水係数測定
概要
飽和土壌カラムの下端に負圧をかけて排水させることにより、不飽和水分移動を発生させる。そのときの水分量を測定すると、水分特性曲線からマトリック・ポテンシャルを計算することができる。試料中のマトリック・ポテンシャルの勾配と排水速度から、その試料の水分量における不飽和透水係数を計算することができる。
実験装置図
試料
- 関東ローム (土粒子密度 2.67 g/cm3 含水比 53%)
実験用具
アクリルリング、ガーゼ、テープ、ハサミ、パラフィルム、ストップウォッチ、アルミ皿、バット、ノギス
方法
- 試料の充填
直径5cm、高さ2cmのアクリルリングを3個重ねたカラムを作成する。そのために、まず1つ目のリングの底にガーゼを4重に巻き、セロテープでガーゼを固定する。
アクリルリングの体積V(cm3)と充填乾燥密度ρd (g/cm3)、試料の含水比ωから、実験1と同じようにして1つのリングごとに土の質量を測定して、リングをセロテープで結合しながら3つのリングに土を充填する。一番上のリングまで充填し終わったところで、カラム上端にパラフィルムをかぶせて蒸発を防ぐ。パラフィルムには、小さな穴をあけておく。
- 飽和
バットに水を入れて、カラムをその中に入れる。カラム下端から水がガーゼを通して試料に入り、試料は飽和される。飽和させる時間は20分間とする。
- 排水
20分間の飽和が終了した時点で、バットに砂をしいたもの(サンドバット)にカラムを置く。砂の上にはガーゼをしいておく。そのときに、カラムの底と砂がまんべんなく接触するようにすること。砂は乾いているため、カラム下端に負圧がかかり、試料中の水が排水される。
- カラムの質量測定
排水開始後10分、20分、25分、30分後のカラム質量を測定する。
- カラムの解体
30分経過時のカラム質量測定後に、実験1と同様にカラムを解体する。各リングの試料をアルミ皿に取り、その質量を測定する。
- 乾燥密度・含水比の測定
以後は、実験1と同様に試料を炉乾してその質量を測定することにより、乾燥密度と含水比を計算する。
計算
- 体積含水率およびサクションの計算
この計算方法は、実験1と同様である。
- 水の体積フラックスの計算
30分後のカラムの質量から10分後のカラムの質量を引いて、経過時間20分で割ることにより、10分後から30分後までの平均流速を求めることができる。同様にして、20分後から30分後まで、25分後から30分後までの平均流速を求めることができる。計算結果を見て、適当だと思う値を30分後の流速Q (cm3/s) だとみなして計算をする。水の体積フラックスq (cm/s) は、
q = Q / A
と計算される。ここで、Aはカラムの断面積(cm2)である。
- 不飽和透水係数の計算
不飽和透水係数は、教科書 p. 117 の式 (6.1) から計算できる。この式の中で、q は2で計算した値、マトリックポテンシャルは1で計算したサクションである。
レポート課題
「計算及び結果」として
- 実験1の水分分布
実験1において、横軸にカラムの左端または右端からの水平距離、縦軸に体積含水率をとったグラフを描け。
- 実験1のサクション分布
実験1において、横軸にカラムの左端または右端からの水平距離、縦軸にサクション(負圧:負の圧力)をとったグラフを描け。その際に、体積含水率からサクションとの関係として、関東ロームおよび豊浦砂の水分特性曲線を用意するので、そのデータを用いること。
- 実験2の体積含水率分布
実験2において、排水後の体積含水率分布を描け。
- 実験2のサクション分布
実験2において、排水後のサクション分布を描け。
- 不飽和透水係数の計算
実験2において、不飽和透水係数を計算せよ。
「考察」として
- 実験1の考察
実験1はどんな現象が起きたのか考察せよ。水分量が多い方から少ない方へ水が動かなかったとすれば、それはなぜか。
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